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食品成分の有する生体調節機能の解明

 近年の腸内細菌学研究の発展に伴い、我々と共生関係にある腸内細菌が宿主の生体恒常性維持と密接に関与することが科学的な根拠に基づいて明らかにされています。我々が生命を維持するために重要となる食事の種類や栄養素の違いが、腸内細菌叢の構成を変化させ、さらに食由来代謝物パターンを制御する結果、宿主の生体恒常性維持と密接に関与することが示唆されています。また、食由来腸内細菌代謝物の中でも、主に短鎖脂肪酸は成体への影響のみならず母胎連関においても重要な因子として機能し、妊娠した母親の食物繊維や短鎖脂肪酸の摂取が産後の子供のエネルギー代謝調節を関与することを明らかにしました (Kimura et al., Science. 2020)。

 また、絶食や飢餓のようなエネルギー不足な環境下においては、栄養素の枯渇の影響により、腸内細菌及びその食由来代謝物の劇的な変化が引き起こされる一方、生体内ではエネルギー不足な環境下で適応するために特異的な代謝物の合成が行われ、宿主の生体恒常性維持機構が全身と局所(腸管)で全く異なる影響を及ぼすことを明らかにしました (Miyamoto et al., Proc Natl Acad Sci U S A. 2019)。さらに、食用油が生体において重要な栄養源であり、且つ細胞膜上の脂肪酸受容体を介したシグナル分子として機能することに着目し、研究を進めています。食用油を構成する長鎖脂肪酸の組成の違いもまた、腸内環境に著しく影響を及ぼすことから、食用油が腸内環境を介して生体構成維持において重要な役割を果たしていることが示唆されています。食用油中に豊富に含まれる必須脂肪酸のリノール酸が腸内細菌によって代謝を受け、新規の代謝脂肪酸として生体内に存在していることが明らかにされ、その生理的意義の解明を目的に研究を進めています。これら代謝脂肪酸群が腸管バリア保護作用、腸炎症状の改善作用、自然免疫系の活性化やアトピー性皮膚炎の症状改善に寄与することを明らかにしています(Miyamoto et al., J Biol Chem. 2015など)。その過程で、代謝脂肪酸群の受容体探索を行った結果、細胞膜上の脂肪酸受容体に対して新規リガンドとして作用し、さらに、一部の代謝脂肪酸は内因性リガンドで食用油の構成脂肪酸よりも高い親和性を示すことを見出しています。また、生体内における代謝脂肪酸が脂肪酸受容体を介して宿主のエネルギー体調節に重要な役割を果たすこと、及び代謝脂肪酸群の生理的意義を明らかにしました (Miyamoto et al., Nature Commun. 2019)。腸内細菌と宿主の生体恒常性維持における実質的な分子実体として「食由来腸内細菌代謝物」が重要な役割を果たしており、さらに、食事が我々の生命を維持するエネルギー源としてだけでなく、腸内環境変化を介した生体恒常性維持にまで影響を及ぼすことを示唆している。

 私たちが摂取する食事は、身体を構成するためのエネルギー源としてだけでなく、様々な生体調節機能(機能性)を有することが明らかとなっています。特に、摂取した食事が最初に到達する消化管は「内なる外」とも呼ばれ、生体内の臓器であるにも関わらず、外界とも接している非常に興味深い臓器です。さらに、この消化管内には無数の腸内細菌が共生しており、近年の研究から、腸内細菌の構成が私たちの健康と密接に関与していることが明らかとなり始めています。このような腸内細菌は、私たちが摂取する食事によって大きく影響を受けることが知られており、その結果、腸内細菌によって産生された食由来腸内細菌代謝物が消化管内あるいは、血中を介して末梢臓器に影響を及ぼすことが期待されています。

 当研究室では、食事の有する新たな機能性を明らかにするために、食事と腸内細菌との相互作用、そして私たちの健康に及ぼす影響を分子レベルでの解明を目指して研究を進めていきます。特に、食事の種類や質的な違い、栄養状態(飽食や飢餓)などの変化と、私たちの年齢やライスタイルに適した機能性食品開発に向けた研究を強く推進します。

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